近年アトピー性皮膚炎の治療薬の進歩はめざましく、外用剤の種類も増えました。
アトピー性皮膚炎の皮膚は?
皮膚には、私たちの体を紫外線や化学物質、細菌などの外界の環境から守る「バリア機能」の役割があります。アトピー性皮膚炎は、この皮膚の「バリア機能」が低下し、ハウスダスト、ダニ、カビなどや化学物質(化粧品、金属など)、アレルギーを起こしやすいアレルゲンなどが侵入して「皮膚の炎症」を起こします。また、「かゆみ」を感じる神経(知覚神経)が皮膚の表面の方へ伸びてくるため「かゆみ」を感じやすくなります(下図)。
アトピー性皮膚炎の症状は?
アトピー性皮膚炎は「皮膚バリア機能の低下」と「皮膚の炎症」と「かゆみ」が影響し合いながら、良くなったり悪くなったりを繰り返す疾患です。また、皮膚をかきむしることでさらに皮膚のバリア機能が低下し、「皮膚の炎症」が悪くなるという悪化サイクルを起こします。特徴的な症状は、「皮膚が赤くなる、細かいぶつぶつができる、じくじくする、かさかさする、ぽろぽろはがれる、かたくなる」などで、いずれも強いかゆみを伴います。
アトピー性皮膚炎の治療の最終目標は?
治療の最終目標は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。また、このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持することを目標とします。アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多病因性の疾患であり、疾患そのものを完治させうる治療法は今のところありません。したがって、薬物療法は対症療法を行うことが原則です。しかし、病変部では、皮膚の炎症による表皮バリア機能のさらなる低下や被刺激性の亢進、掻破行為の刺激などによって、湿疹がますます悪化する悪循環が生じうるため、薬物療法で炎症を制御することは、アトピー性皮膚炎の悪化因子を減らすことにもなります。
アトピー性皮膚炎の治療は?
アトピー性皮膚炎の治療は「薬物療法」、「スキンケア」、「悪化因子への対策」の3点が基本となります。炎症を抑える外用剤(抗炎症外用剤)はステロイドが主体ですが、ステロイドではない抗炎症外用剤として1999年にプロトピック軟膏が販売開始され、2020年にコレクチム軟膏、2022年にモイゼルト軟膏が使用できるようになりました。それらにより外用治療法の選択肢が増え、治療効果の向上とともに、長期間のステロイド外用剤の使用による皮膚萎縮や毛細血管拡張、酒さ様皮膚炎などの副作用の出現を軽減できるようになりました。当院では、下記の治療方法を組み合わせて皮疹のコントロールに努めています。アトピー性皮膚炎は、良くなったり悪くなったりを繰り返す疾患です。治療を続けてアトピー性皮膚炎の症状がよくなっても、目に見えない炎症が皮膚の奥に残っていることがあります。自己判断で中断せず、医師の指示に従って一定期間塗り続けることが大切です。
1,薬物療法
塗り薬(外用薬)や飲み薬(内服薬)などで皮膚の炎症やかゆみを抑えます。
外用薬
・保湿剤:ワセリン製剤、ヘパリン製剤、尿素製剤など
・ステロイド外用剤:効能の強さにより、ウィーク、ミディウム、ストロング、ベリーストロング、ストロンゲストの5段階に分けられます。
・免疫抑制外用剤:タクロリムス(商品名プロトピック)軟膏
・外用ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤:デルゴシチニブ(商品名コレクチム)軟膏
・外用ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤:ジファミラスト(商品名モイゼルト)軟膏
写真はステロイドではない抗炎症外用剤の3薬剤
*濃度の違いにより1薬剤につき2種類ずつあります
*プロトピック軟膏にはジェネリック医薬品があります
内服薬
・抗ヒスタミン剤
・漢方剤
・経口ステロイド剤(全身性副作用の出現の懸念から、急性増悪時や重症の寛解導入時に短期間のみ使用することがあります)
2,スキンケア
入浴やシャワーで汚れを落とし、皮膚の清潔を保ち、保湿してうるおいを保ちます。
3,悪化因子への対策
悪化因子を見つけ、可能な限り取り除きます。必要に応じてアレルギー検査であるMAST48などの血液検査(”検査案内”のページ参照)を行うことがあります。しかし、アトピー性皮膚炎の悪化因子はたくさんあることが多く、遺伝的な体質、心理的ストレスなども複雑に絡み合って発症します。仮に検査で疑わしい悪化因子がわかったとしても、それらを取り除くだけでは完全には良くなりません。悪化因子をはっきりさせるためには、総合的な判断が必要になります。
主な悪化因子:汗、乾燥、唾液、髪の毛の接触、衣服との摩擦、ハウスダスト、ダニ、カビ、花粉(スギ、ヒノキなど)、ペットの毛、ストレス、化学物質(化粧品、金属など)など。
新規治療薬
上記1~3の治療や対策を適切に行っても症状が改善しない中等症以上のアトピー性皮膚炎に対しては、以下の新規治療法を含む治療強化の検討が必要になります。これらの薬剤においては、上記1の治療法に比べて副作用や合併症の出現する可能性が高まると考えられています。そのため、患者さんの状態を把握するために、治療の導入時および維持において検査やモニタリングが必要な薬剤であったり、副作用や合併症が生じた場合には高次医療機関で速やかに検査と治療を行う必要のある薬剤が含まれています。クリニックである当院においては、迅速な対応に限界があると判断し、現在のところ、これらの治療は行っておりません。本治療が必要と判断した際には、適切な高次医療機関の皮膚科へご紹介いたします。
内服薬
内服ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤
①バリシチニブ(商品名オルミエント)
②ウパダシチニブ(商品名リンヴォック)
③アブロシチニブ(商品名サイバインコ)
注射薬
生物学的製剤
①デュピルマブ(商品名デュピクセント)
②ネモリズマブ(商品名ミチーガ)
③トラロキヌマブ(商品名アドトラーザ)
④レブリキズマブ(商品名イブグリース)
ステロイド外用剤に対する不安をお持ちの患者さんへ
ステロイド外用剤に対する誤解から、ステロイド外用剤への恐怖感や忌避が生じ、適切に外用できていないことがあります。具体的には、ステロイド内服薬による副作用との混同、およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用剤の副作用との混同などです。また、使用方法を誤ることにより効果を実感できず、ステロイド外用剤に対する不信感を抱くこともあります。ステロイド外用剤は、たくさんの治療法がでてきた現在においても、皮膚の炎症を抑えるために第一に行う治療法であり、適切に使用すれば恐れることはありません。ご心配があれば遠慮無くご相談ください。
参照・引用
日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
日本アレルギー学会 アレルギー総合診療のための分子標的治療の手引き 2022年11月
コレクチム軟膏をお使いになる方へ 第3版 鳥居薬品株式会社 2021年6月
アトピー性皮膚炎なんでもQ&A マルホ株式会社 2016年8月